【のらぼう】
(のらぼう菜/トウ立ち菜/かき菜/茎立ち菜/折り菜/芯摘み菜)
学名/Brassica napus。アブラナ科西洋アブラナの一種。
首都圏西部の秋まき地野菜。トウ立ちを摘んでおひたしや和え物に美味。

太い茎の部分が最もおいしい
畑ののらぼう(中心の最初のトウを収穫した直後の草姿)
 明和4年(1767)9月、幕府の関東郡代・伊奈備前守(半左衛門)忠宥(タダオキ)により、江戸近郊の天領の
村々に配付された闍婆菜(ジャバナ)の種が、その後いつのまにか「のらぼう」と名を変えて、埼玉県飯能市、
東京都青梅市を中心とした東京西郊の山麓地帯に伝わった。(分布範囲は南は神奈川県川崎市多摩区菅地区
から北は埼玉県比企郡ときがわ町大野地区あたりまで)                        
「請取申す一札の事」
秩父郡大野村(現比企郡ときがわ町)村民103名連署の
闍婆菜(のらぼう菜)の種と指南書の受取証文

 寒さの中でよく成長し、春彼岸頃から出るトウ立ちを折りとって収穫する。            
  柔らかい花茎にはほのかな甘味があり、他の菜花類のような苦味やクセがない。ゴマ和えや、おひたし、
味噌汁の実などによく、また油とよく合うので、炒めてマヨネーズで食べてもおいしい。       
 茎立ち菜、トウ菜などと呼ばれる花茎を食べる野菜は、万葉の昔から日本全国に数多く有るが、食味の
点では「のらぼう」がナンバーワンであろう。                          

 この食味の良さをF1野菜に取り入れようと、昭和40年代から多くの種苗会社が当店から種を持ち帰り、
交配試験を行っているが、まだどこも成功していない。横浜の日東農産種苗の話だと「染色体が三倍体に
なっていて、他のアブラナ科野菜とは交配できない」と言う話だったが、昨年(2005)当店を訪れたサカタ
のタネの通販部長の思い出話では、「アブラナ科野菜としては希有なことに、自家不和合性が無いので、
交配親にできなかった」と言う。アブラナ科野菜には通常自家不和合性という自分の花粉では種が実らな
い性質があり、これを利用して交配種を作るのだが、この性質が無くて自分の雄しべの花粉で雌しべが受
粉してしまうため、雑種ができにくいということだ。                       
「のらぼう」の前名である「ジャバ菜」がもともとどこで生まれ、どういう経路で江戸幕府の手に渡った
のか、今では知るよすがも無いが、たぶんジャワ島経由のオランダ交易船が日本に持ち込んだのだろう。
この特殊な西洋油菜(現在、神奈川県農業技術センターの調査で、「のらぼう」の染色体数はn=19という
西洋ナタネと同じ複二倍体であることが判明している)は、明治開国以前に渡来した不思議な洋菜なのだ。

 他と交配しないアブラナ科野菜という「のらぼう」の不思議な性質は、自家採種に適しているというこ
とであり、今、全国で危惧されている、遺伝子組み換えの西洋ナタネの自生化による花粉汚染にも染まら
ないということである。「のらぼう」が、日本の伝統ナッパのエースとして、世界の脚光を浴びる日が、
やがて来るのかも知れない。                                  

 「のらぼう」の播種時期は秋9月下旬。(伊奈忠宥が種と一緒に配付した『指南書』には「3、4月また
は8月に蒔け」と書いてあるそうだが、旧暦の9月に配付したための方便だろう。春にトウを収穫するため
には、寒さを越えなければならないのだから、秋まきして寒くなるまでに定植しておかなければならない)
 10月いっぱいぐらいまで畑の隅などで苗を育て、霜の降りる前に株間30〜40cm間隔に植え付ける。(株間
が狭いと、込み合って太い花茎が育たない。トウが細くスジばってしまうのでなるべく広くとりたい)  
 寒さの中で良く育ち、肥沃な土壌だと高さ1m近くの大株になり、芯の最初の太いトウを下から折り採ると
(これが最もおいしい)その後よく分枝して、数十本の太い花茎が5月まで収穫できる。(食べ飽きたらそのま
ま放置すると菜の花が咲き、翌年のタネが実る。代官所が配付した『指南書』には「余った種は幕府に送れ
ば採油して活用する」と書かれていたそうである)                         
 病害虫も特に無く、日本全国に広まってほしい家庭菜園向きの春野菜である。(収穫後、葉がしおれやすい
ので、長距離輸送や大量出荷には向かない)                             
 なお、アントシアン色素によって葉軸が薄赤く発色する株と、まったく発色せず、緑色だけの株がある。
交雑しない植物なので、雑種化したわけでなく、それぞれ育った地域の寒さに適応した変化の結果だろう。
(以前、群馬で栽培した「のらぼう」の写真を見せられ、びっくりしたことがある。それは、厳しい寒さの刺
激で、紅菜苔と見まがうばかりに花茎が真っ赤に変化した「のらぼう」の姿だった)           
 植物の糖分は寒さの刺激で蓄積されるから、一般に赤味の増している「のらぼう」のほうが甘味も強いと
言えるだろう。しかし、鮮緑色の野菜を好む人も多いから、どちらが良いのかは一概には言えない。    
 当店の「のらぼう」の種は、昔ながらの色々混ざった自家採種品なので、赤味の強いものから種を採れば、
赤く育っていくし、赤味の少ない株から種を採れば、緑色の「のらぼう」に変えていくこともできます。  
 自家採種をくりかえして、ぜひ自分または、全国各地オリジナルの「のらぼう」を創っていってください。


2001.7→2006.4改定


〒357-0038 埼玉県飯能市仲町8-16 野口のタネ/野口種苗研究所 野口 勲
Tel.042-972-2478 Fax.042-972-7701 E-mail:tanet@saitama-j.or.jp


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