前述の、偶然生まれた「小松菜カブ」を隔離して育て、この一株内だけで自家受粉させます。そして採れた種をまくと、母親である「みやま小カブ(純系固定種)」と、父親である「小松菜(詳細不明)」に分れるとともに、メンデルの法則に従って、その中間型の小松菜と小カブの雑種が、葉型もカブの型も様々な雑駁な姿で現れます。
「小松菜カブ」を固定種として育てる場合、上記の子世代の中から、どう見ても普通の「小カブ」や「小松菜」と思われるものを取り除き、多種多様な第二世代雑種の中から、育種目標にかなったものの選抜をくり返してしていくことになります。
具体的には、栽培初期に、小カブの葉を持つものを、まず抜き取ります。残った小松菜の葉を持った個体の中で、根がいつまでも太らないものを、次に取り除きます。(捨てずに食べて、親である小かぶと小松菜の味をよく覚えておきましょう)
残された、小松菜の葉で根がカブのように太るものの中から、カブ形状が良く生育が順調なものを残しながら、葉が横に開くもの、立ち上がるものなど、特色のある葉型を数種類残しながら、徐々に間引いていきます。(この間引き菜も、もちろん食べます。生で、サラダで、お浸しで、浅漬けで、味噌汁で、煮物で…食べている内に、葉型や葉色、カブの肌、生育の早さや草勢の大小などの違いが、食味にどう影響しているかわかってきます)
農薬はなるべく使わずに、虫や病気のつき具合も観察しましょう。もしかすると、根こぶ病抵抗性因子やウイルス抵抗性の株が発見できるかもしれません。でも、気象条件などで、特定の虫や病気で全滅しそうになったら、迷わず農薬を使いましょう。この種は、かけがえの無い、世界でただ一つの品種を生み出す母体なのですから。
こうして、味、葉型、病虫害を視野に入れて残した株を、11〜12月に全部抜き取り、土の中のカブ根の形を調べて、玉割れや尻こけなど残したくない形質を持ったものを除き、数十株程度の原々種用母本(ぼほん)を選んで、4,50cm間隔で畑に植え付けます。
原々種用母本に実った種は、面倒でも1株ずつ別々に採り、それぞれに名前を付けておきます。以後、この1株ごとに、前述の作業をくり返します。親株が増えてくると管理が煩雑ですが、親によって、極端に種が採れない(実入りが悪い)ものとか、長雨にあうと病気で全滅してしまいそうになるものなど、種として致命的弱点を表すものが時にあるので、こうしたものは早いうちに容赦なく切り捨てます。
こうした作業を数年くり返すと、やがて(7,8年ぐらい?)、最初の両親だった小カブも小松菜もまったく出なくなり、まいた種の全部の種が、小松菜の葉と小カブの根を持った「小松菜カブ」となって、カブの形状もおのずから一定してきます。
ここまで固定できれば、固定種「小松菜カブ」は、ひとまず完成です。
固定した小松菜カブの中に、特に生育の早いものがあれば「早生」、カブが大きく育っても玉割れや肉質が劣化せずトウ立ちの遅い個体がみつかれば「晩生」、葉が小振りでトンネル栽培に向いていると思えば「覆い下」などと名付け、栽培方法別に品種のバリエーションを増やすこともできます。
採種量が増えてきたら、友人知人に配り、違う土地で試作してもらいましょう。沖縄の暑さに強かったり、北陸の雪の下でも育ったり、思わぬ特徴が見つかったりもします。
今回、形状の違いという面白さだけで取り組んだ小松菜カブですが、味覚上も小カブにない個性が出れば、加工方法次第で地域の新しい産物が生まれるかも知れません。どなたか小カブと小松菜を並べてまいて、チャレンジしてみませんか?(笑)
さて、「小松菜カブ」を大手種苗メーカーが見つけ、素材として面白いと思ったら、これは絶対交配種にします。
その手順はというと、[ひとりごと]
自家採種を勧めるHPの趣旨と矛盾しますが(笑)、「小松菜カブ」のように今までに無かった固定種が誕生したら、
交配種にしなくても農水省品種登録制度に申請して、以後20年、種子や作物の販売利益を独占することも可能です。
ただ、毎年の更新料がけっこうな金額のようで、種苗メーカーでも、払い続けず失効していたりするようです。(笑)
どれ位かというと、(アレ)僕のMacでは読めない書類形式なので、ご自分で上記のページから辿ってご覧ください。