|
1999.9.28 狭山市笹井にて撮影 photo by Isao.Noguchi
|
定植後、順調に生育しているように見えた結球白菜が、虫に喰われたようすも病斑も無いのに、だんだん生気が衰え、朝露のあるうちはピンとしているが、日中は下葉がしおれて見るからに元気が無い。
そんな時は、たいてい根に障害が起きているので、試みに根元を掘り上げてみるといい。で、写真のようにコブができていたら、文字どおり根こぶ病である。
残念ながら、治す方法は、まだ無い。おまけに、このコブの中には根こぶ病の休眠胞子がつまっていて、今掘った農具や土・肥料、種子などに付いて伝染していく。休眠胞子嚢の中の胞子は、土中で数年間生き続け、次に寄生できるアブラナ科作物が植え付けられるのを待っている。非常に始末の悪い病気である。
結球白菜の農林省指定産地では当然大問題で、(アノ恐ろしい)クロールピクリンや、PCNB粉剤(どちらも最近入荷しなくなった。農協用の本には掲載されているから、おそらく指定産地が全量押さえているのだろう)などで土壌消毒するとともに、根こぶ病抵抗性品種(『CR』と表示されている)が作付けの中心になっている。
当店のお客様からはほとんど発病を聞いたことが無かったので、置いてあるメーカー元詰めのタネを見て「CR ってなんですか?」と問うお客さんがいると「根こぶ病といって産地で問題の病気に抵抗性があるということです。だけど、このへん(飯能)じゃ出てないから、普通のタネで十分ですよ。値段が高いし、耐病性をつければつけるほど、野菜はまずくなるのが普通ですから」と言っていたのに、今日(1999.9.28)、まさにこの手でさわってきてしまった。
幸いうちで販売したタネは発病して無かったが、農協に並んでいるタネをほとんど一手に納めている T 種苗の「85日系一代交配種 H 」というのが「耐病性」をうたいながら軒並みやられている。これは、このタネから種子伝染しているのだろうか? それとも、近くに奥さんの実家からもらってきた"長野の地大根"というのがあったから、それに胞子が付いてきたのだろうか? ともかく、この畑には、以後しばらくアブラナ科野菜(白菜・大根・キャベツ・かぶ、ほとんどの菜っぱ類=ほとんどの秋野菜)が作れない。困ったものだ。
※この畑にどうしてもアブラナ科を作りたい場合は、以下の注意が必要である。
1.根こぶ病抵抗性品種を作る。(『CR』と表示)
2.播種または定植前に土壌消毒をする。(『フロンサイド』『ネビジン』等)
3.育苗には無菌の土を使う。(赤玉土とバーミキュライトの混合等)
4.酸性土壌で発病が多い(と、ものの本に書いてある)らしいので、中和する。
*ただし、消石灰や苦土石灰、石灰窒素などは、諸悪の根源。(と信じているので、ウチはタネ屋のくせに取り扱ってません)カキ殻石灰(有機石灰)を使いましょう。
【おたより】根こぶ病について、名大農場 耕地利用学研究室の朝倉嘉子さんから、下記のような非常に興味深い E メイルをいただきました。(1999.10.19)
==================================以下引用==============================
うちの研究室でも根こぶ病のことをテーマにしている後輩がいて、よく話に出ます。
私のいる附属農場の畑でも、おととしより猛威を振るっています。
今年はRのつく品種を導入して、他の品種と生育量や発病率について試験しています。
とても興味深いことに、10年間、慣行的な施肥を行ったり化学肥料だけを入れつづけた畝では根こぶ病が大発生しているのに、牛糞堆肥を入れつづけた畝と食品産業排水汚泥コンポストの畝はまったく根こぶ病が出ないのです(根こぶ病の胞子は存在しているのに、発病しない。)。
pHや土壌の水分条件などを変えて発病の程度を見る実験を後輩が行っていますが、とても興味深いです。なにかわかったらまた報告します。
==================================引用終わり=============================
有機土壌の中に、根こぶ菌の働きを押さえる有効菌が存在したためかと思いましたが、ちょうど立ち寄った(集金ですけど(^^;) W 採種場の人の言う「化学肥料で大発生した原因は、速効性肥料による根焼けで根にできた傷口から、菌が侵入したためでしょう。根が健康なら土壌菌による病気は出ません」という意見にも一理ありますね。(1999.10.20)
[
ひとりごと]しかし、農林水産省の指定産地制というのは、どーしようもないですね。
食糧自給率なんて数字しか見ていないから、何十年も同じ土地に同じ野菜作らして、どんどん新しい病気を生んで、
イタチごっこで種苗会社に強健均一だけが取り柄の野菜を作らせて、業務用のまずい野菜で市場を埋めて…………
…だけかと思っていたら、最悪の病気を産地の外の自給用家庭菜園にまではびこらせていたとは。
(確証はないけど、状況的に「クミアイのタネ」の仲間が伝染源のような気がする。地域種苗店のタネを
「コンピュータ処理できないから」と追い出して、最悪の病気を、日本中の畑にバラまいてるのだらうか)
このままじゃ、日本の伝統野菜が、日本の畑で生きられなくなる日が、やがて来るような気がする。
なんて、タネ屋やりながらのんびり言ってていいわけないよなあ。 ウーム。(1999.9.28)
〒357-0038 埼玉県飯能市仲町8-16 野口のタネ/野口種苗研究所 野口 勲
Tel.0429-72-2478 Fax.0429-72-7701
E-mail:tanet@noguchiseed.com