種子法廃止で日本のコメはどうなるのか?
私は、固定種(在来種ともいう)のタネだけを販売する、野口のタネ/野口種苗研究所という小さなタネ屋を経営しています。固定種というのは、タネ屋の業界用語で、昔から栽培されてきた、自家採種してタネが採れるタネのことです。タネを蒔いて育った野菜の中から良いものを選んで自家採種し、できたタネを翌年蒔くと、親と同じ野菜で、より自分の好みにあったものが収穫できます。現在主流となっている野菜のタネは、そのほとんどがF1(一代雑種)という、異なる二系統を毎年かけあわせて生みだされたタネで、タネが採れないか、採れても二系統の異品種とその間の雑種がバラバラに生まれてしまうので、翌年同じ野菜を収穫するためには、毎年同じタネを買い続ける必要があります。固定種は、一系統の親しか持たないために自家採種できるのです。一度タネを購入すれば、翌年以後は購入する必要がありませんし、自分の土地や口にあった野菜に変化していきます。いわば「いのちが進化しながら代々つながるタネ」なのです。(イネ、ムギ、ダイズなどの穀物では、収穫したイネ、ムギ、ダイズが、そのまま翌年のタネになります)
植物は、根が土の中に張っていて動けません。動物のように脳や神経がありませんから、自分が生育している環境を認識する感覚器官は、根や茎や葉の表皮組織です。根毛や茎葉の表皮細胞が、土壌や気候を感じ取って花を咲かせ、気候風土に適応した子であるタネを生みます。遠く離れた土地から運ばれたタネでも、移動した先の土地に蒔かれると、その子孫は、変化した環境に適応していきます。固定種といっても、形質が鋳型に嵌められたように固定して変化しないのではなく、先祖の遺伝子が持つ多様性が働いて、環境の変化に応じて、進化し続けていきます。この生命が持つ環境適応力を、馴化(じゅんか)といいます。
馴化の例として、Schuebeler氏が1857年に小麦の種子を中央ヨーロッパからノルウエーのオスロに移したところ、初年度は103日で収穫したが、二年目は93日、三年目は75日で収穫できたことが知られています。またこの種子を再び中央ヨーロッパに持ち帰ったところ、80日で収穫できたそうです。(安田貞雄「種子生産学」1948)気温や日照時間の変化に対応して、遺伝子が変化していったということです。
馴化という環境適応力を使って、植物は世界中に広がり、人類の食生活を豊かにしました。中近東原産の小麦も、東南アジア原産のジャポニカ米も、有史以前にわが国に伝わり、全国各地の気候風土に合った多種多様な品種が生まれてきました。地域ごとに品種群は分化し、栽培者ごとに自慢のタネが存在し、気候変動がまた新たな変化を生んで多様性が花開き、田園には生命力が満ちあふれました。多様な生命力を生み出したのは、気候や環境の変化に適応した子孫を残そうとする固定種の生命力であり、それを助けたのが、より良いものを選んで翌年のタネにしようとする、栽培者の選択です。固定種を自家採種することで、人類は植物の進化を助け、多様性を育んできたのです。コシヒカリ、ササニシキなどといったおコメの種籾も、最近まで、ほとんどすべてが固定種でした。イネは自家受粉性の植物ですから、自分の雄しべの花粉で雌しべがタネ(コメ)を作ります。収穫したコメの中から良い種籾を選んで翌年蒔けば、同じコシヒカリやササニシキが収穫できますから、二年目からは種籾を買う必要がないはずです。また自家採種することで、自分の栽培環境に適したおコメに変化していくはずです。しかし、現在ほとんどのコメ農家は、毎年種籾(または苗)を地域JAから購入しています。なぜでしょう。それは「種子法(主要農作物種子法)」という法律があったためです。
■主要農作物種子法とは何か?■
「種子法廃止」が話題になり始めた昨年春、日本農業新聞から「種子法廃止問題についてご意見を伺いたい」という電話取材を受けました。そのときは初耳だったので「種子法って何ですか?」と、逆に聞いたら、農業新聞の記者に「えっ!」と絶句されました。『タネが危ない』という著作を出しているタネ屋が、種子法を知らないはずがないと、思い込んでいたのでしょう。(笑)
「種子法というのは、都道府県に米の種子生産を義務付けた法律で、それを来年から廃止しようという国の計画に対して、反対する運動が起こっているという問題です」農業新聞の記者の答えに「それでしたら、僕は、種子法廃止に賛成です。タネは全人類の共有財産で、大企業だろうと、国や都道府県だろうと、タネを独占することには反対ですから」というと、「では、またの機会に」という言葉で電話が切られました。その後も「種子法廃止問題」に対する意見を求められることが多く、その都度「よく知らないけど廃止には賛成」と言っては呆れられてきました。今回の「舩井メールクラブ」からの原稿依頼の趣旨も、種子法絡みでした。せっかくの機会だから、種子法について勉強してみようと思っていたので、ほとんど何の予備知識も持たないまま、うっかり原稿を引き受けてしまった次第です。読者の方々にとっては自明のことも多いのでしょうが、固定種タネ屋の店主の独言に、少々おつきあいください。
改めて主要農作物種子法(略して種子法)とはどんな法律なのか?と、棚でホコリをかぶっていた『六法全書』を取り出して開いたところ、2巻本で4200ページもある分厚い書籍のどこにも掲載されていません。『六法全書』に載っていない法律があるなんてことも知らなかったので、驚いたところから勉強ははじまりました。ネット検索してわかったことは、この法律は「行政法」という分類の法律で、都道府県などの行政が行うべきことを定めた法律でした。「憲法」や「民法」、「商法」や「刑法」、「民事訴訟法」や「刑事訴訟法」という合計六法のように、一般国民が生活上規範とすべき法律ではないのです。だから『六法全書』に掲載していないということのようです。タネ屋だって市井の一般国民ですから、知らなくて当然の法律でした。
行政法ですから、種子法を知悉していて、廃止された場合に一番困るのは、この法律に基づいて任官し、生活の糧を得ている都道府県の職員、地方公務員の方々なのだろう。と、まず合点しました。種子法によって税金から給料をもらい、全国の米作農家に君臨することを保証してくれていた基盤が、政府の官僚と国会議員によって奪われてしまうことになり、切羽詰まって、民主党政権時代の農林水産大臣だった山田正彦先生に泣きついたことから始まったのが、今回の種子法廃止反対運動の発端だろうと、理解したのですが、うがち過ぎているでしょうか。(種子法廃止に続く種苗法改正も、利権を失った都道府県職員と傘下のJAの逸失利益を補填するための措置ではないかと思っています)
局外者ゆえの邪推はともかく、せっかくの機会だから、たった8条しかない主要農作物種子法の条文をみてみましょう。
第1条(目的) この法律は、主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進するため、種子の生産について圃場審査その他の措置を行うことを目的とする。
第2条(定義) この法律でいう「主要農作物」とは、稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆をいう。(2項略)
第3条(圃場の指定) 都道府県は、あらかじめ農林水産大臣が都道府県別、主要農作物の種類別に定めた種子生産圃場の面積を超えない範囲内において、譲渡の目的をもって、又は委託を受けて、主要農作物の種子を生産する者が経営する圃場を指定種子生産圃場として指定する。(2項略)
第4条(審査) 指定種子生産圃場の経営者(以下「指定種子生産者」という)は、その経営する指定種子生産圃場について圃場審査を受けなければならない。(2,3,4,5,6,7項略)
第5条(圃場審査証明書の交付) 都道府県は、圃場審査又は生産物審査の結果、当該主要作物又はその種子が前条第5項の都道府県が定める基準に適合すると認めるときは当該請求者に対し、農林水産省令で定める圃場審査証明書又は生産物審査証明書を交付しなければならない。
第6条(都道府県の行う勧告等) 都道府県は、指定種子生産者又は指定種子生産者に主要農作物の種子の生産を委託した者に対し、主要農作物の優良な種子の生産及び普及のために必要な勧告、助言及び指導を行わなければならない。
第7条(原種及び原原種の生産) 都道府県は、主要農作物の原種圃場及び原原種圃の設置等により、指定種子生産圃場において主要農作物の優良な種子の生産を行うために必要な主要農作物の原種及び当該原種の生産を行うために必要な主要農作物の原原種の確保が図られるよう主要農作物の原種及び原原種の生産を行わなければならない。(2,3項略)
第8条(優良な品種を決定するための試験) 都道府県は、当該都道府県に普及すべき主要農作物の優良な品種を決定するため必要な試験を行わなければならない。以上の全条文をタネ屋の目で見ると、野菜のタネ採りを採種農家に委託する際、農家にお願いしている注意事項を、「審査」とか「指定」「勧告」といった堅苦しい法律用語を使って、地方公務員に指示している事務的な「行政法」であることがよくわかります。
種子法の第8条は「都道府県は、(中略)優良な品種を決定するため必要な試験を行わなければならない。」という条文で、この「試験」に基づいて都道府県は、各地域ごとに普及すべき奨励品種を選定し、種子場(たねば)JAに種籾の生産を委託し、できた種籾を地域JAに販売して、農家に購入させ、農家が収穫したお米をJAが集荷して検査し、銘柄証明や等級付けをして買い上げます。農家が提出した作付け計画に基づいて、JAが販売した正規の種籾からできたお米しかJAは買い上げてくれませんから、毎年同じ品種の種籾を買い続けることになるのです。栽培方法もJAが指導しますから、当然農薬を使用した慣行農法です。
コメ農家が栽培したい品種が、その都道府県の奨励品種でなかった場合や、自家採種した種籾を使って自然栽培を行った場合(無肥料無農薬等の自然栽培は、自家採種を前提として可能になります)も、そのお米はJAに出荷できないので、民間流通米(自由米)として自分で販売先を見つけるか、自家用の飯米として食べるしかありません。これまで国は、主要農作物種子法に基づいて都道府県に補助金を交付し、都道府県とJAによる種子と栽培技術の画一化を図ってきたのです。国民が飢えに苦しみ、食管法(食糧管理法)によって食糧を安定供給する必要があった時代には、種子法を制定して、コメの種籾生産を都道府県の独占業務として義務付けることが必要だったのでしょう。当店は、「自家採種できるタネ」を売り文句にしているタネ屋ですから、米麦はじめ穀類のタネも取り扱いたいと思ってきました。しかし1942(昭和17)年に制定された食管法(食糧管理法)という大きな壁がありました。種籾もコメですから、販売免許を持った米穀店以外は、販売を禁じられていたのです。大豆だけは(野菜である)エダマメのタネと言って、袋に入れた大豆を、細々とタネ屋でも販売することを認められてきましたが、これも一物二価で「なんだかなあ」です。
2004年にコメの流通が自由化し、スーパーでもコメが買えるようになって、初めてタネ屋もコメの種籾を販売できるようになりました。60年以上の長きにわたって続いてきた国の食糧統制が、食管赤字によってついに崩壊したのです。でも、主要農作物種子法によって、コメの種籾の生産は都道府県が一手に抑えており、種苗業界には、コメの原種も、選抜したり交配して育種するためのノウハウも、販売種子を採種してくれる農家も、つまりこれまでの蓄積がなにひとつありません。また最近話題の新品種であるブランド米の多くは、育種した都道府県が種苗登録していますから、種苗業者が再生産して販売したら種苗法違反で犯罪行為です。いきおい都道府県が登録した品種でも、25年という登録期間が満了して、既に権利が消滅した古い品種か、民間の農家が育成して誰も登録しなかった古い品種を探して販売することになります。
■誰も権利を持っていないコメだけが自家採種できる■
2012年6月、愛媛県に講演に行った際、自然農法のカリスマである故福岡正信さんのお孫さんで、福岡農園を引き継がれている大樹(ひろき)さんとお会いして農園を案内していただき、翌年福岡正信さんの生誕100年祭と墓参に参加した折、ご遺族からハッピーヒルという福岡正信さんが1986年に育成したおコメの種籾をいただきました。現在、これを、従業員が借りている水田で無肥料自然栽培で増殖して、ネット販売しています。このコメは、福岡正信さんが第二次大戦中にビルマから持ち帰った種籾と、日本の在来種を交配して作ったコメだそうで、品種名は、福(ハッピー)と岡(ヒル)を合成して名付けられました。イネは自家受粉性植物ですから、交配して雑種を作り、その中から有望な新品種を探し出すには、花の中央の雌しべが成熟する直前に、周囲にある六本の雄しべをすべて取り除いてから、他品種の花粉をふりかけるという非常に細かくて面倒な作業が必要でしたが、やがて「温湯除雄法」という、イネの花を43℃の温水に8分間浸すと雄しべの機能が失われるという発見を使って、異なる品種間の雑種を作る方法が一般化しました。福岡正信さんは、1939(昭和14)年から1947(同24)年まで、高知県農業試験場に勤務されていましたから、そこで知った交配技術を使ったのでしょう。
昔、イネの品種改良は、田んぼで偶然生まれた突然変異株を見つけることから始まりましたが、現在、都道府県の農業試験場などで行われている品種改良技術は、ほとんどがこの「温湯除雄法」で雄しべを不能にした母親株に、必要な性質を持った他品種の雄しべの花粉をふりかけて人工交配することによって、新品種を作っています。
「一粒万倍」という言葉があるように、一回の交配で生まれた新品種の種籾一粒は、翌年自家受粉して数千粒に増えます。こうして万、億、兆、京と、無限のいのちとなって増え続けていくのが、イネという植物です。(「一粒万倍」という言葉は、「報恩経」というお経に出てくる言葉で、「良いことをすると、おコメのように万倍になって帰ってくる」というお釈迦様の教えだそうです。ちなみに一粒の麦は、一桁少ない数百粒に増えるのだそうで、詩人のアーサー・ビナードさんに、「麦文化の欧米に一粒千倍という言葉がありますか?」と聞いたところ「無い」ということでした)現在当店では、ハッピーヒルはじめ、自然栽培農家に分けてもらったササニシキや、種苗会社から仕入れている陸稲の農林一号など、自家採種可能な数品種のコメの種籾を販売しています。
たまに「おたくの種籾は、塩水選をしていますか」と、お客様に聞かれることがあります。「塩水選ってなんのためにするのですか」長い間コメの種籾を取り扱ことが禁じられてきましたから、米作農家にとっては基本的で常識的と思われる用語も知りません。「古かったり、充実していないと、芽が出ないないからじゃないんですか」「うちでは毎年発芽試験して、ほぼ100%の発芽を確認していますから、塩水選などしなくてもいいんじゃないんですか」というと、「そうですね」と、納得していただけますが、たぶん都道府県の試験官だったら、「種子法に基づいたマニュアル通り検査していないからダメ」って言うでしょう。「種子法が廃止されると、アメリカから遺伝子組み換えのコメが入ってきて、日本人の健康が脅かされる」と、廃止に反対する人たちが言っています。「主要農作物種子法を廃止する法律案」が昨年閣議決定し、国会に提出されたときの農水省の提案理由が、「民間による種子や種苗の生産供給の促進」だったからです。確かに、種子法に基づいて、税金を使って都道府県とJAが構築した種籾生産のための既存システムは、新たに種籾生産に乗り出したいと考える民間企業にとっては、参入への大きな障壁でした。
10年近く前、日本種苗協会の会員に、コメの種子生産への参入が呼びかけられ、農水省職員が講師となって勉強会が開かれたことがありました。私も後学のために参加してみたところ、話の多くはハイブリッドライス、つまり雄性不稔のF1品種の種籾を生産してみないか、というお勧めでした。
大手種苗業者は、野菜のF1品種を生産するノウハウを持っています。農水省は、このノウハウをコメの種子生産に生かして欲しかったのでしょう。でも、動員されて参加したほとんどの種苗会社は、呼びかけ人である当時の種苗協会会長をはじめとして、終始しら〜っとしていました。たとえ研究農場でF1品種の開発に成功しても、種苗会社には販売用のコメの種子を大量生産する採種農家も、末端のコメ農家に販売するJAのような組織も、何も持っていないからです。F1野菜のタネのように、産地JAに勧めようにも、JAはどこも都道府県が指定する奨励品種しか取り扱っていません。新品種の開発だけ成功しても、生産部員も営業部員も働くことができないのです。勉強会を開いて、種苗業界のこうした反応をみた経験も、農水省に種子法廃止を決定させた一因になったのではないかと思います。■野菜モドキ コメモドキ ヒトモドキ■
ハイブリッドライスの勉強会で、アメリカのコメの39%、中国のコメの58%が、雄性不稔のF1になっていることを知りました。(2009年度の推定値)当然いまはもっと増えているでしょう。日本では三井化学アグロが、みつひかりという雄性不稔F1品種のコメを販売しています。三井化学アグロは、生産した種籾を、コメ農家に栽培してもらい、三井グループで全量買い上げて、牛丼の吉野家に販売しているそうです。コメの種子市場に新規参入するのは、財閥グループのような巨大組織でないと難しいのかもしれません。
雄性不稔というのは、人間でいうと無精子症で、男性機能を失った植物です。雄しべを取り除くことから始まった交配技術は、コメでは温湯除雄法に変わり、いまは雄性不稔株利用という最新技術へと変化しています。動物で無精子症、植物で雄性不稔という男性機能を失う現象は、動物も植物も、細胞の中に持っているミトコンドリア遺伝子の一部が異常になることによって起こります。異常になった遺伝子が作るORF79というタンパク質が、ミトコンドリアの内膜に蓄積すると、ミトコンドリアが生成するATPという生命エネルギー発生装置に障害が起こり、男性機能が衰えてしまうのです。(2011年東北大学環境適応生物学教室の研究による)ミトコンドリア遺伝子の異常は、母系遺伝によってすべての子に遺伝します。核の中に稔性回復遺伝子を持つ系統を最後に交配することで、食糧にできるコメが一回だけ生産できますが、できたコメを種籾にして蒔くと、ミトコンドリアが持つ不稔因子が復活して花粉がないため、お米が実りません。こうして農家は、コシヒカリやササニシキの7,8倍という、高価なF1みつひかりの種籾を毎年購入することになります。
ミトコンドリアと雄性不稔については、↓こちらをご覧ください。
http://noguchiseed.com/hanashi/mitochondria.html遺伝子組み換えは、フランスのカール大学の実験によって、危険性が広く知られるようになったため、種子の輸入が世界中で拒否されるようになっています。遺伝子組み換え種子が売れなくなったため、以前遺伝子組み換え種子を生産していたアメリカの農民の1000ha以上の畑が、丸ごと大麻畑に変わっていたのを、高城 剛さんは昨年ご覧になったそうです。
遺伝子組み換え植物は、組換えられた遺伝子を花粉に乗せて周囲を汚染します。こうした環境汚染に反対する市民運動も多いため、最近は遺伝子組み換え植物を雄性不稔F1にして、花粉をなくす研究も進んでいるようです。花粉がなくなればタネが実りませんから、種苗会社は遺伝子を盗まれる心配がなくなり、農民は毎年タネを買い続けます。世界中の消費者は、花粉がなくて子孫が作れない、いのちが続かない食べ物ばかりを食べる時代になっています。
一代雑種(F1・ハイブリッド)にすると、雑種強勢によって収穫量が増大しますから、人類を飢餓から救うともてはやされていますが、反面「F1野菜は味がない」「形ばかりの野菜モドキだ」という声も大きくなっています。収穫量が150%増加するというみつひかりを筆頭に、やがてコメも、コメモドキになっていくでしょう。そして食べている人間も、子孫を作れないヒトモドキになっていくのではないでしょうか。手塚治虫先生は、「いのちのないところに未来はない」と言いました。食べ物からいのちを、未来を、奪ってはなりません。固定種を自家採種してタネを採り続けることだけが、生命の多様性を生み出し、植物の馴化を促して、気候変動に負けない食べ物を人類に与えてくれるのです。
日本人とコメがともに進化していくために、自家採種の障壁になってきた種子法が廃止されることには賛成します。
もし遺伝子組み換えのコメが日本に入ってきたらどうするって? そんなものは、食わなきゃいいんです。
[2018.5.17舩井メールクラブ 第333号掲載原稿に一部加筆/2018.10]
〒357-0067 埼玉県飯能市小瀬戸192-1 野口のタネ/野口種苗研究所 野口 勲
Tel.042-972-2478 Fax.042-972-7701 E-mail:tanet@noguchiseed.com