ウリの仲間は、雌花と雄花が別々に咲きます。そして、雌花にだけ果実がつきます(あたりまえですね)ので、 雄花はムダ花と呼ばれて嫌われます。
で、この雌花(成り花)が、親蔓の低い節位から葉の出る節ごとに順々につくように人為的に改良された品種が、 節成り胡瓜(支柱栽培するところから、俗に立ち胡瓜と言っています)で、場所を取らず、 狭いビニールハウス内に 何百本も植えることができ、早くから収穫できるので、営利栽培で使われる胡瓜は、ほとんどこの節成り胡瓜の一代 交配種です。(連作に耐え、色や形、日保ちをよくするための品種改良が進み、また特殊なカボチャの台木に接いで いるので、どんどん皮が硬く、不味くなっています)
これに対し、昔ながらの伝統固定種の胡瓜は、親蔓一本仕立てでは雌花のつきが悪く、ムダ花が多くなるので、 適当なところ(本葉5、6枚から7、8枚)で親蔓の芯を止め(これを摘心と言います)、それまでに 出た葉の 付け根から伸びる子蔓を3、4本伸ばして広げ、子蔓や孫蔓のあちこちについた雌花の果実を収穫することで、 最終的な収量を多くします。
親蔓を途中で切って子蔓・孫蔓を伸ばし、そこから出た葉が、よく太陽光線に当たるように広げてやらなくては いけないことから場所を取り、成りはじめるのも遅いのですが、 やがて地面を覆って広がった葉が、自然の太陽光線を いっぱい受け、夏の暑さにも成り疲れせず、昔どおりの柔らかくて味のよい胡瓜がたくさんとれます。 (昔の胡瓜って皮が柔らかいから、もいで一日も置いておくとしなびたものです。確かにこれじゃ市場もスーパーも 嫌がりますね。自家用の畑を持ち、毎日こまめに収穫する人だけが味わえる味。これこそ究極のぜいたくな味では ないでしょうか)これが伝統的地這い栽培の胡瓜、地這胡瓜です。(地這い胡瓜は、雌花が飛び飛びにしか つかないことから、飛び節系とか飛び成り系とも言います。また、地面が充分温まってから直播きして栽培される ことが多いので、寒いうちに苗を育ててトンネルやハウスで栽培する胡瓜に対し、余まき胡瓜とか夏胡瓜とも呼ばれます)
主にタネから直播きで栽培します。(当店ではゴールデンウィークには飛び節系品種の地這胡瓜苗も販売して いますが、寒さに耐えて売り苗が丈夫に育つことが第一義なので、交配品種を使っているため果実はやや硬めです。 自家用には、固定種をタネからまいたほうが安いし、柔らかくて美味しいので、充分地温が上がってから、伝統固定種を まくことをお勧めします)
タネまき(ポリキャップをかぶせてやれば4月下旬頃からまけます)の1〜2週間前に、畝幅 1m 株間 5,60cm の 間隔で深く耕し、完熟堆肥や完熟腐葉土を、深さ 15〜20cm に敷き込み、掘り起こした土を山に盛っておきます。 (こうした1株ごとに肥料を与える畝作りを「くらつき=鞍築=」と言います)
肥料は、必ず完熟したものを使ってください。未熟のものを使うと、土の中で醗酵して熱を出し、根を傷つけて生育を 阻害したり、病気や虫の侵入口を作ることになります。(速効性の化成肥料を施した直後に植え付けて根に当たっても、 同じ害があります)
くらつきしたところを平に均し、一ケ所に3、4粒ずつ、それぞれ離してまきます。土をかける深さは 1cm ぐらい。 胡瓜のタネは、土の温度が充分上がらない時期には、明るいと芽が出にくい嫌光性を示すので、確実に覆ってから水を たっぷり与えます。
タネをまいたら、市販の有孔ポリキャップをかぶせてやります。全体に細かい換気用の穴が開いた三角形のポリ袋で、 保温と小さい苗をウリバエなどから守る効果があります。三角形の一辺が 45、50、55、60cm の各サイズがありますが、 胡瓜だったら 45〜50cm ぐらいがいいでしょう。1m ぐらいに切った極太の針金か篠竹を1株に2本使い、それぞれ両端を 土に刺して十文字に交差させ、その上にポリキャップをかけて、下部を土よせして止めます。穴の無いポリ袋などで代用 する場合、胡瓜の芽が出たら上部に穴を開けて換気するのを忘れないでください。 気温が高くなると内部が高温になり すぎて生育障害をおこします。
本葉が4、5枚になり、苗が込み合ってきたら、ポリキャップを取り除き、間引いて元気のよい株一本立ちにします。 畑に余裕があったら、間引いた苗を植えてやってもいいですが、あまり大きくなった老化苗は根付きが悪いかも 知れません。(笑)
間引きが終えたら、根から少し離して、醗酵油かすか醗酵鶏糞、または緩効性化学肥料のマグアンプKなどを 追肥してやりましょう。果菜類は次々と実が成るので、肥料切れをおこしやすいものです。これから全収穫期間を 通じて、肥料が切れないよう、適宜追肥してやります。
またこの時、稲わらか麦わらがあったら敷きわらもしてやります。根元の土を柔らかく保ち、雨の泥はねが 葉裏にかかって気孔や地際から病気が侵入するのを予防する効果があります。ポリマルチでもいいのですが、 浅根性の胡瓜は夏の高温や乾燥の害を受けやすいので、自然のわらが一番です。
親蔓が 4,50cm くらい伸びたら、先端を摘み取って芯を止めます。これを摘心と言って、地這胡瓜で実を たくさん収穫するための一番重要なポイントです。
芯を止められた胡瓜は、残された葉の付け根から子蔓を伸ばし、また子蔓の葉の付け根から孫蔓を枝分かれ させて伸ばします。
最初に書いたとおり、地這胡瓜とは、この子蔓・孫蔓に果実を成らせる品種なのです。くどいか。(笑)
子蔓が3、4本出てきたら、それぞれの葉が重ならないよう、四方に広げてやります。この時、伸びる 方向に沿って、敷きわらも大きく広げてやりましょう。
これで栽培作業はほとんど終了です。あとは、楽しい収穫作業。あ、病虫害さえ気にしなければ…ですが。(笑)
成った果実は早めにもぎとりましょう。数日遅れると、ものすごく大きくなって、調理にも手がかかりますし、 木も疲れて早く体力を消耗し、早く終ってしまいます。
こまめに見回り、なるべく若いうちに果実を収穫しながら、時々追肥して樹勢を保ってやれば、美味しい胡瓜が 夏の間中楽しめます。
7月中にタネをまいて上記の通り育てると、秋風の吹きはじめる9月から10月いっぱい、霜が降りるまで収穫 できます。夏を越して温度が 15℃ ぐらいになると雌花の発生が多くなりますので、この時期の栽培もぜひお試しください。
夏まき用の伝統品種として、昔から「霜知らず」という固定種が有名ですが、厳密に比較すれば…と言う程度の話で、 本格的な降霜に遇うとペチャンコになるのに変わり有りません。入手できなければ、普通の余まき栽培用夏胡瓜の 地這胡瓜で充分ですし、かえって柔らかく味が良いと思います。
当店の採種品である「奥武蔵地這胡瓜」は、戦前、日本最大の種苗会社であった帝国種苗殖産という会社が、満州で 育種していた秘蔵の原種を、戦後引き揚げてきた技術者から「会社も無くなってしまい、郷里に帰るから、自分の代わりに 普及して欲しい」と、譲り受けたもので、伝統固定種である地這胡瓜の美味しさと、地這胡瓜らしからぬ(笑)形の良さと 多収性が特徴で、既に一代交配種全盛となった昭和47年(1972)でも、全国原種コンクール三位の銅賞を受賞した逸品です。 ぜひ家庭菜園の一画に作ってみてください。また、胡瓜の育種に興味をお持ちの方は、素材の一部に取り入れて、独自に発展 させてみてください。これは、ウリ科の育種技術を持たず、せっかくの素材を活かしきれないと反省している、当店からのお願いです。
(この画像は最初期のもので、その後カラー版で小売価格300円になっています)
日本の主要野菜の一つである胡瓜は、全国が産地であり、それだけに全国各地の(もともとはある地域の風土に しかなかった)病虫害が、あっという間に産地を越えて広がっています。
ここでは、代表的ないくつかをご紹介します。
[べと病] 胡瓜の代表的病害。梅雨時に多発する。カビ(胞子)系。葉に小さな黄色の斑点ができ、しだいに角ばった 黄褐色の病斑になる。雨水のはね上がりで葉裏の気孔から侵入するので、敷きわらで、はね上がりを防ぐ。 薬剤はダコニールなど。
[炭疽病] カビ系。はじめ黄色の斑点ができ、葉・茎・果実に茶褐色の輪紋状になって広がる。雨滴で胞子が 飛散して伝染する。薬剤はダコニールなど。
[うどんこ病] カビ系。梅雨明け後に多発する。はじめ白いカビが丸く付着し、やがて葉全体がうどん粉をかけた ようにカビで真っ白になる。老化した葉が侵されるので、若い葉が元気な時は、そんなに心配しないでよい。 薬剤はダコニールなど。
[疫病] カビ系。地際部の根や茎が褐色になり、腐敗して枯れる。畑の水はけが悪く、根元に水がたまると発生 しやすい。薬剤はジマンダイセンなど。
[モザイク病] ウィルス系。葉が波をうったように縮れ、濃淡のまだら模様になる。ウィルス(バイラス)性の 病害で細胞内に侵入するので、いったんかかると治す方法が無い。ウィルスを媒介するアブラムシの飛来を防ぐこと。
[斑点細菌病] 傷口から侵入する細菌性病害。べと病によく似た症状を現すが、葉裏にカビ(分性胞子)が 見られない。薬剤は銅水和剤など。
[つる割れ病] 土壌中の胞子が根から侵入する。はじめ日中葉がしおれ、朝夕は回復する症状をくりかえすが、 やがて地際から褐色に腐敗して枯死する。土壌病害なので、蔓延したら根の丈夫なカボチャなどに接ぎ木した苗を 植えるしかない。(不味くなるが)薬剤はベンレート潅注など。
[つる枯れ病] 支柱などに付着して越冬した胞子が、茎や葉から侵入する。葉の縁から、はじめ白くやがて褐色に 三角形のクサビ形に変色し枯れてくる。茎では主に節に発生し、病斑から上は枯死する。薬剤はベンレートなど。
[アブラムシ] 新芽や葉裏に密生する。樹液を吸って樹勢を衰えさせるが、モザイク病の媒介者として 恐れたほうがいい。予防を旨とし、薬剤は、発芽後早い時期にオルトラン粒剤の株元施用が効果的。
[オンシツコナジラミ] 体長1mm 前後の小さな真っ白い羽虫が、葉裏に群生し、近付くと粉を撒いたように 乱れ飛ぶ。幼虫が皮膚に付くと痒いことからこの名がある。薬剤はオルトラン粒剤の初期使用かスプラサイト 乳剤(劇物)。
[ハダニ] はじめ葉が点々と黄色く色ぬけし、しだいに融合して大きくなり、やがて葉全体がカサカサと色つやが 悪くなる。こうした時は、たいてい葉裏にハダニが群生している。オサダンなどのダニ専門薬剤以外効かないが、 ハダニは短命ですぐ薬剤抵抗性を獲得し子孫に遺伝させるので、同じ薬を長期間使わぬこと。
[ウリハムシ=ウリバエ=] 最近やたらと多い。他の虫と違って葉の表面を食べるので、目につきやすいせいかも 知れないが。小さい苗のうちに新芽を食われると、後の生育の仕方が変わってしまう。小さいうちは、 有孔ポリキャップなどで守るしかないだろう。苗が大きくなって大発生してからは、薬剤をかけると一斉に 飛び立ってしまうので、防除が難しい。オフナックなどが効くというのだが。
【ひとりごと】
1ページ作るのに、丸々三日もかかってしまった。いつ完成するのだろう。このデータベース。
間違ったことを書くといけないから、参考資料をひっくり返して確認している時間が長いせいか。
春ダネのリストも、まったく進展しない。
『現代農業』2001年2月号で、僕の原稿を読んだ読者の方々から、たくさんお問い合わせをいただいているのだが、
春ダネは揃わないし、(11月に注文したのに、昨日品種確認の電話をしてくるメーカーさえある。
カタログには載っけていても、小売店からの固定種の注文が、それだけ無いということだろう)
届いたタネも、このところの寒さでじっとしていて、発芽試験にちっとも結果が現れてこない。
高温を要するナスなどはわかるのだが、発芽率が確定しないと1袋に詰める粒数も計算できない。
うーむ、困ったものだ。あれあれ、また雪が降ってきたよ。今年はなんて多いんだ。(2001.1.20)
〒357-0067 埼玉県飯能市小瀬戸192-1 野口のタネ/野口種苗研究所 野口 勲
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