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光文社発行の『女性自身』2008.11.4号《9割が輸入品じつは危ない「野菜のタネ」》という記事が、種苗業界で問題になっています。
取材先のひとつにうちが入っており、僕の顔を含め、写真がうちの画像ばかりであるため、あたかも記事全体が僕の意見で構成されているかのように受け取られている向きもあるようで、正直、非常に迷惑しています。
一昨日、社団法人日本種苗協会(会長/滝井傳一・タキイ種苗社長)の役員の方がうちに来られ、「農水省や大手種苗会社に読者から問合せがあり、日種協でも光文社への抗議などを検討している。ついては日種協宛に野口さんの真意や取材経過などを報告して欲しい」という要請がありました。
昨日、日種協会長宛の報告書を書いてみましたが、どうも自分に非があるわけではないのに、ともすると「ご迷惑をおかけしました」との詫状めいた口調になってしまうのに釈然とせず、書いている途中で、脳味噌が煮詰まってしまいました。そこで頭を整理するため、書き慣れたホームページの文章として、取材経過と、記事に対する僕の意見を記し、真実を明らかにしたいと思った次第です。
後半は記事の検証作業となりますので、一般の方には煩雑な文章になるかと思いますが、タネに対する誤解がこれ以上広まるのは看過できませんので、ぜひお読みいただきたいと思います。
取材経過
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取材依頼の電話がいつあったのか、もう忘れてしまいましたが、9月末か10月初めの頃だったのでしょう。
「以前お伺いしたフリージャーナリストの郡司と申します」という自己紹介でした。数年前のことですので、
何という雑誌(本?)のどんな記事で来訪されたのかも忘れておりましたが、苗字に聞き覚えがあったので、
「その節はどうも」と受けました。「今度は『女性自身』の記事で、種のことをお聞きしに伺いたいのです。
ご都合は?」と言うので、いつものように、「だいたい店にいるので、いつでもいいです」と言ったところ
10月10日前後の日時(いつ来られたか記録が無い)を言われ、現在の店に来訪されることになりました。
そして当日、「郡司です。これから伺います」と、電話が入るまで、すっかり忘れていました。 |
さて記事の検証に入る前に、一点だけ確認しておきたいと思います。それは、前項で記したように、うちに取材に見えられたのは、「フリージャーナリスト」と称する「郡司さん」お一人だったということです。従って、この記事を書かれた「記者」も、当然「郡司さん」お一人と考えるのが自然でしょう。
では、記事中に登場するコメンテーターの「食品問題に詳しいジャーナリストの郡司和夫氏」というのは、どなたなのでしょう?
「以前一度来た」時の名刺が見つからないので、断定はできないのですが、「記者の郡司氏=食品問題に詳しい郡司和夫氏」と考えるのが妥当ではないでしょうか?
無署名で、公器の立場で記事を書きながら、偏った自分の意見を、権威を装った別人の意見として随所にちりばめる。これが「ジャーナリスト」の行為でしょうか?
実は、10月21日朝「週刊誌を読んだ」と、読者の方から電話があり、女房に買ってきてもらって一読した瞬間、表現の乱暴さや粗雑さ、タイトルや惹句、見出しの、危機を煽るだけのセンセーショナルな構成に辟易し、すぐに放り出してしまいました。
今改めて読みながら、「この記事(とその波及効果)の暴走を許してはいけない」と、強く思っています。どこが間違っていて、どこがいけないのか、僕の指摘をもとに、皆さんも検証してみてください。
「女性自身」の記事を検証する
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1.《食卓を蝕む「中国の闇」!》という総タイトルは適切か? 野菜のタネの記事は、上記タイトルの小特集の後半部分。前半は見開き2ページで中国食品の異物混入事件となっている。 この構成を見ると、中国食品叩きの記事に合わせて、「タネも中国採種が多いから危険だ」との企画先行記事と思われる。 実際の外国生産種子は、アメリカ一辺倒のトウモロコシやスプラウト種子、雨が少ない地中海のイタリアで採種されている ダイコンやナッパなどが圧倒的に多い。中国産は黒ゴマなど食料品とかぶる品目が多いのではなかろうか?野菜のタネが、 中国叩きの企画の巻き添えにされたような気がする。 2.スプラウト用種子は種子消毒されているか? 大きな小見出しで「スプラウト野菜はとくに注意が必要」とあり、中国野菜の残留農薬を調査する「農民運動全国連合会」 の話として「出た芽をすぐに食べるカイワレなどスプラウト(新芽)野菜には注意が必要」と書かれているが、寡聞にして スプラウト用種子で種子消毒されているタネを、今まで見たことがありません。うちで扱っているアメリカ産の貝割大根も 貝割用ブロッコリーも、イタリア産のマスタードも、ミャンマー産のモヤシ用のブラックマッペやグリーンマッペのタネも すべて「無消毒」と表示されています。そもそも種子消毒したタネは、スプラウトに使えないというのは業界の常識です。 3.輸入種子はF1と呼ばれる繁殖能力がないものになっている? こういうでたらめなことを書いたり言ったりする人が出るから、僕は講演依頼に「最低2時間必要」と言っているのです。 F1(一代雑種)とはどういうものか、正確な知識があったら、口が裂けてもこんないいかげんな発言はできないでしょう。 たぶん僕の本を飛ばし読みして、都合のいいところを切り取ったのでしょうが、間違っているとしか言い様がありません。 F1種子の作り方にはそもそも様々な方法があり、元来雑種強勢(ヘテロシス)という、雑種になると実つきや成長力が旺盛 になるという自然の力を利用して開発された育種技術です。 雑種ですから親と同じ子供は生まれませんし、確かに雄性不稔を使ったF1は、花粉に繁殖能力がありません。しかし実を 結べないわけではありません。(他の健康な花粉が付けば実を結ぶことができる) 輸入種子は、最初は固定種用として海外生産されたのです。F1はずっと後で海外採種されるようになったのですが、需要が 圧倒的に多いので、総量として多いのです。 4.F1種は成長力が弱く、農薬や化学肥料なしでは立派な野菜に育たない。 カブなどでそういう例があることは事実です。でも、無肥料無農薬で育っているF1トウモロコシも、この目で見ています。 無肥料無農薬栽培自体がまだ試験的な状況ですから、こう言い切ることには疑問がありますし、経営をF1に頼っている種苗業界からは、まず認められることはないでしょう。 5.輸入種子は、遺伝子組み換えや放射線照射をされている可能性が高いという 「前出の郡司氏によれば」という前書きがついていますから、郡司さんは、そのような事例を実際にご存じのわけですね? 確かに農水省は、日種協等の反対を押し切って、2006年3月に除草剤耐性の遺伝子組み換えナタネや、トウモロコシ等の 国内栽培と運搬を認めてしまいました。(参照PDF) しかし寡聞にして、いま実際に日本国内にそのタネが輸入され、販売、栽培されているという事実を、まったく知りません。 各地の伝統野菜はじめ国内にはまだ多くのナッパやカブのタネが採種されています。日本オリジナルのこうした貴重な菜類 に遺伝子組み換えの花粉がかかっては、種苗業界はもとより、生産流通業界にとっても、また消費者にとっても一大事です。 具体例をご存じでしたら、ぜひお教えいただきたくお願い申し上げます。 また放射線照射は、育種の過程で素材に突然変異を起こさせるために使われることはあっても、販売種子の生産流通段階で 使われることはありえないと認識しています。何のためにそのような操作をする必要があるのでしょう? これも具体的な事例をご存じのことと思いますので、併せてお教えいただきたいと思います。 最後に 私どものタネを「安心でおいしい」と紹介していただけることはありがたいのですが、その前提となる「農薬まみれで生産」、 「放射線照射は当たり前」、「中国からも急増中」という「危ない野菜のタネ」の問題点が、以上のように具体例を伴わない、 デフォルメされた、不当な言い掛かりでしかないとすると、「贔屓の引き倒し」で、迷惑を被るのは私どもです。 |
[ ひとりごと]
このページを日種協(会長)宛の「僕の真意と取材経過報告」に代えたいのだが、認めてくれるだろうか?
(2008.10.26)
〒357-0067 埼玉県飯能市小瀬戸192-1 野口のタネ/野口種苗研究所 野口 勲
Tel.0429-72-2478 Fax.0429-72-7701 E-mail:tanet@noguchiseed.com