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ミラクルコーン「味来」の謎?

一代交配種なのか? 固定種なのか?
味来の絵袋
ミラクル糖度で話題のとうもろこし「味来390」

 最近、種苗メーカーの営業マンが来るたびに「味来(みらい)」っていったい何? と、聞いている。

 1999年夏に「夏祭り」などの名で(タネの品種名と青果として出荷される名称が違う例は多い)首都圏に出荷され、 今までにない高糖度で話題になった「味来390」は、アメリカの種苗会社が、じかに日本に販売網を構築したことでも 種苗業界に波紋を投げかけた。
 関東地方では、A工業という、全農(JA)などに販売力を持つ肥料メーカーが独占販売権を持ち、茨城や埼玉のJAと 組んで、「夏祭り」の名で産地形成を図っている。両者と青果市場によるマスコミ対策が効を奏し、既存種苗メーカー各社も、系列販売店の要望に応じるかたちで、続々取扱いを開始している。
 もちろん当店でも、少量ずつではあるが、数社に予約発注をかけた。

 元々とうもろこしの育種技術は、アメリカが圧倒的な力を持っている。
 戦後日本に入って来た「ゴールデンクロスバンタム」などの一代雑種は、瞬く間に「甲州とうもろこし」などの日本の伝統品種を 駆逐し、サカタが販売権を得た「ハニーバンタム」により、日本中が一代雑種のスイートコーン一辺倒となった。
 その後、黄色と白の二色の粒が混じったバイカラー品種「ピーターコーン」が登場し、スーパースイートともてはやされて、 二色コーンの全盛時代が長く続いて来たが、ここに来てタキイが販売する「キャンベラ」とともに、「未来390」の登場で、 再び黄色だけのとうもろこしの人気が復活しようとしている。
 ただ、「キャンベラ」はあくまで今までのスーパースイートの流れだが、「味来」はミラクルスイートコーンと銘打ち、まったく 違う系統のとうもろこしであるという。で、メーカー各社の社員に、冒頭の問いを投げかけ続けているわけである。
 いわく「味来」っていったい何なの? と。

「サラダコーンですよ。今までのサラダコーンより大きいけれど、スイートコーンの半分の時間で茹であがって、 ちょっと茹で過ぎるとシワシワになっちゃうのは、生でも食べられるサラダコーンの系統だからです」
と、T社の某氏。
 なるほど、黄色が薄いという特徴は、数年前話題になった時うちも売ったことがあるサラダコーンに似ている。(あまりにグチャグチャした 食感と、他品種が近くにあると交雑して、両方ともおかしくなってしまうというキセニアの発生しやすさで、すぐ止めてしまったが…。あれ? サラダコーンって、固定種じゃなかったっけ?)
「キセニアですか? 完全なヘテロ(雑種による一時的強勢)ですから大丈夫です。どっちにも影響ありません」
と、簡単に言いきったのは、N社の某氏。
「一代雑種なの? それにしちゃ、一代交配とも、F1 とも書いてないよ。値段は交配種以上だけど…」2,000粒入りで \4,300. という小売価格設定は、今までのどんなとうもろこしよりも高い。仕入値も驚くほど高いそうだから、小袋詰めする時苦労しそうだ。こんな高いタネは交配種以外考えられないが、その表示がどこにも無い。これが、そもそも疑問の発端なのだ。
「販売元が肥料メーカーだから、交配種も固定種も知らないんじゃないですか。どっちにせよ、来年このタネを売らないと、タネ屋として認められませんよ」
本気か冗談か、いいかげんなことを言って帰って行った。

 今日(1999.10.13)M社の某氏に「いったい交配種なの? 固定種なの?」と、また聞いたら、栽培資料の束をめくりながら、
「あれぇ? ホントだ。どこにも、交配ともなんとも書いて無い」と、驚いている。コピー取らせてもらったから、全ページ手元にあるが、いったいぜんたいどっちなんでしょうね。

 ちなみに、見本にもらった絵袋(上掲写真)の裏を見ると、
「デントコーンや普通種の花粉がかからないように注意する」と書いてあるから、なあんだ、キセニアは発生するんじゃないか。 (でも普通種って何のことだろ?)「発芽率がやや低いため、必ず3粒まきする」とも書いてある。せしめた「栽培の手引き」をみると、
「甘さ重視の品種改良の結果、圃場試験での発芽率は平均70%とやや低めです。したがって欠株の発生を防ぎ、しっかりと目標株数を確保するためには、1穴あたり 3粒以上必ず播種しましょう」
 発芽率の低さを売物にしているタネって、もしかして初めてじゃないかしら?(笑)
「また、他の品種と比較し発芽勢も劣りますので、ベンレートなどの殺菌剤を播種前に種子に粉衣するか、播種後に土壌潅注し立ち枯れなどの発生を防止しましょう」
 ええっ!? 発芽率と言い、発芽勢の悪さと言い、これって、雑種強勢が発現してないってことの傍証じゃないかしらん。(?.?) ヘテロじゃなく、ホモだって証しでしょ。ってことは固定種ってことじゃん。もしかして。
 ブレイクしたのは'99年だけど、試験栽培は 5,6年前からやっていたらしい。その間、誰もタネを採ってみようなんて、思わなかったのかしらねえ。(採ってみても、言わないか。普通)


ひとりごと
まさか、最先端テクノロジーで不稔因子を入れているなんてこと無いですよねえ?
表示義務ができたんだから、それは無いか。アハハ。(1999.11.13)

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